もう少し早くお願いします

癌治療に携わる医師へのメッセージー
堂園メディカルハウス 堂園晴彦 吉見太助 吉田恵子

1. はじめに

1996年11月に有床診療所で終末期医療をはじめた。外来は癌の患者のみでなく風邪や妊婦、また、心身症の患者も多く、町の気楽に立ち寄れる総合有床診療所の感が有る。

入院患者の約7割は癌の患者であるが、約3割は慢性疲労症候群、不安神経症、悪阻等色々な病気が原因で入院しており、駆け込み寺的な役割りも担っている。ホスピスマインドは、癌の患者のみでなく、風邪の患者に接する時も必要な心であり、堂園メディカルハウス(以下DMH)は心のケアをしてくれるのでと噂を聞いて来院する患者も少なくない。予想しなかった反響である。

一方、多くの医師はホスピスは、最期の最期に行くところであるとの認識が強く、患者本人や家族がDMHへの転院を強く希望しても、まだホスピスに行くには早い、あそこは死ぬ所だという説明をし、患者はぎりぎりになって来院することが多い。今回の論文がこのような状況を打破する役割りを担えばと思う。

2.死亡者の特徴

1997年1月から2001年5月までに330名を看取った。

男性181名、女性149名であり、年齢は18歳~95歳、平均年齢は64歳であった。70歳台が最も多く、次いで、60歳台、50歳台、40歳台と続いた。

原発部位は肺癌が78名と最も多く、次いで大腸癌38名、胃癌37名であった。

死亡場所はDMHが204名、62%、自宅が126名、38%であった。また、最終的にはDMHで死亡した患者の約3割は在宅でのホスピスケアを受けたことがある。

3. 初診から死亡までの期間

初診から1週間以内に死亡した患者は48名、15%、2週間以内46名、14%、3週間以内19名、6%、1ヶ月以内32名で、初診から1ヶ月以内の死亡者は145名、45%であった。
1週間以内死亡した患者をさらに細かく検討すると、1日2名、2日5名、3日17名で、1週間以内に死亡した患者の半数が3日以内に死亡している。

原発部位は肺癌が10名で最も多く、次いで胃癌7名、大腸癌5名、膵臓癌4名、肝臓癌3名であった。男性35名、女性13名、平均年齢68歳であった(表―5)。

4.考察

一般病棟の医師が緩和ケア施設に紹介する時、家族に説明する予後は実際の予後より5倍も長く、さらに、医師の予後の予測がただしかったのは20%に過ぎなかったとの報告が有る(British Medical Journal 320;469-473).

DMHでは初診から1ヶ月以内に145名、45%が亡くなっており、2週間以内に95名、29%が亡くなっている。多分、多くの緩和医療施設が同じ悩みを抱いていると思う。来院して亡くなるまでの時間が短いとスタッフが患者さんや御家族と深いコミュニケーションを築くのは至難の技である。

何が問題なのであろう。一般病棟で緩和医療が出来ないとは思っていないが、短期間で亡くなった方の御遺族の殆どが、もう少し早くDMHに連れてくれば良かったと述べておられる。

終末期をホスピスで過ごすことを望んでいる患者が、自分の人生を振り返ったり、仕事の始末をしたり、家族と豊かな交流を持てるには、最低1~2ヶ月は必要と思う。また、家族と肯定的な別れができるためにも、時間が必要である。多くの思いが残る別れは、死後残された者の心の中に否定的な感情を作りがちであり、死後の立ち直りにも深い影響をおよぼす。グリーフケアは亡くなってから始まるのではなく、亡くなる前から始まっているのである。一般病院では、この認識は乏しい。

ゆったりとした空間、穏やかな時間の流れ、スタッフの数の多さや終末期医療に対する熟練した技術。すべての方が緩和医療施設で最期を迎える必要はないが、転院を希望している患者さんや御家族に、最期の最期に行く場所であると説明するのは、緩和医療に対する認識不足である。癌疼痛対策の講演や終末期の患者さんの精神的サポートの講演会を企画しても、医師の参加は驚くほど少ない。

また、抗癌剤の治療中止の基本的方針を知らない医師が多すぎるのも問題である。特に、中途半端な知識で、とっかえひっかえ抗癌剤を使うような治療は犯罪に等しい。DMHに転院して1ヶ月以内に亡くなった患者さんの約7割は抗癌剤をその前に使用していた。私は骨盤外科を国立がんセンターで学んだが、手術をして1ヶ月以内に死亡した時は、手術の適応が正しかったのか徹底的に反省させられた。抗癌剤は薬のメスである。副作用死は論外だが、抗癌剤の効果判定基準とどの時点まで抗癌剤治療をするかは、安易に判断すべきではない。特に、再発の患者や手術不能な進行癌の患者では、抗癌剤の使用を安易に決めるべきではない。術前にカンファレンスを開くように、標準的治療法が確実に行なわれているか、どの時点まで続けるか、抗癌剤で予後の延長とQOLの向上が認められているのかなどを、個人の感覚で評価するのではなく、カンファレンスを開いて慎重に検討すべきである。資源の有効利用やQOLから考えても、高価な抗癌剤の使用は慎重であるべきである。若い医師に抗癌剤の値段を聞いてみたが、驚くべきことに、殆どの医師が知らなかった。

同様に、IVH等も漫然となされていることが多く、今までは患者さんのためになると思われている医療が、予後の改善に寄与していなかったり、QOLを損ねている場合も少なくない。このような問題を改善するには、卒後積極的に緩和医療を研修するシステムが必要である。

有床診療所でホスピス医療を始めるにあたり、多くの医師から無謀だと言われた。しかし、「採算はわからないが、勝算はある」と大見得を切ってはじめ、早や5年が経とうとしている。青息吐息ながら、種は確実に蒔け、少しずつ芽を出し始めていると思う。

「花」は有床診療所での入院緩和医療が点数化されることである。