風邪は万病予防の元?
野口整体法の野口晴哉氏は、「風邪の効用」という名著の中で、「風邪は自然の健康法である」と書いている。風邪は万病の元ではなく、万病予防の病気とも言えよう。
元神戸大学教授で精神科医の中井久夫氏によると「重い精神障害を発病した人に、それまでの健康状態について尋ねると、風邪一つひいたことがないといった完全な健康を続けていた人が多い」という。 強迫観念のように「完全な健康」を追い求めて日夜努力している人にとっては、衝撃的な言葉ではないだろうか。
医師で芥川賞作家の南木佳士氏は「阿弥陀堂だより」の中で「私の頭の中からなにかがその束に乗って出て行ってしまったのね。(略)私の頭の中から出て行ったのは『気』なのよね。元気の気。(略)死者を見過ぎたのかなあって漠然と思ったの。生きるのに生のエネルギーが必要だとすると、死んでゆく人の周囲には負のエネルギーの場が出現して、生き残る人の生のエネルギーを吸い取ってしまうの かしら、なんて本気で思ったわ」と書いている。
私もある時、心がぷっつりと折れてしまった。それまで強迫観念のように「完ぺきな終末期」ばかりを考えていたが、それが折れてしまったのだ。「腑抜けになる」という言葉があるが、自分の腑が抜けたときをはっきりと覚えている。おなかから白っぽいものが抜けていった感じがした。
人間の自律神経があり、交感神経には、交感神経と副交感神経がある。仕事の時は交感神経が優位で、リラックスしているときは副交感神経が優位になる。風邪をひかない体はいつも戦闘状態にあり、免疫もフル回転している。しかし、免疫機能も使いすぎると枯渇し、心も体もある一線を超えると大病になる。
風邪は休養の時間をくれたのだ。積極的に休み、ゆっくり自宅で過ごし、明日への英気を養おう。風邪は万病の元でなく、うまくつきあえば、万病予防の元になる。
平成18年12月8日 南日本新聞「南点」掲載