患者と私
診療所を開設して11月3日で10年である。開院時のあいさつに次のように書いた。
「多くの人々の汗が新しい風景を創り出しました。ひとしずくの雨が小さな川となりやがては大海となるように、日本の南端の小さな有床診療所での汗や涙がたくさんの支流をつくり、そして、日本全体を包み込むような新しい医療(New Medical Science)の海になることを夢見ております。」
そして今、10周年の決意を記念式の案内に書いた。
「インドのことわざに「千年の闇も1本のロウソクで明るくなる」とあります。1本1本燈してきましたロウソクも ようやく10本になりました。強風のため、消えてしまいそうな時もありましたが、スタッフと皆様方の支えでここまで消えることなく燈し続けることができました。振り返ってみて病む方々にとりまして、暴風雨の中の灯台(light house)の役目を少しは果たせたのではないかと自負しております。私達の次なる使命は、この地薩摩から友愛の風を世界中に届けることと考えております」
聖母病院(東京)の看護師だった故・寺本松野さんは「看護の中では気負っていると挫折する。死と生のはざまで苦しんでいる人に何かができると思い込むことは不遜であろう。倒れないように支え、倒れたら立ち上がるための杖となるために看護がある」と述べている。
私は一時期、燃え尽きてしまったことがある。自分が未熟なのに、死に逝く患者さんに何かをしてあげたいという不遜な気持ちからだった。 昨年、病み上がりに聞いた詩人金子みすゞの記念館館長の矢崎節夫さんの講演から学んだ。
「私とあなた(私中心)」ではなく「あなたと私(あなた中心)」だったという。
これからは「私と患者」から「患者と私」の心を創りたい。
明日午後2時半から、矢崎さんの講演会が鹿児島市の黎明館で開かれる。師のつく職業の方にぜひ来てほしい。
平成18年10月27日 南日本新聞「南点」掲載